「五月雨よ」の作編曲(編曲はTomoLowさんと共同)を担当されている温詞(あつし)さん。寡聞にして初めてお名前を知ったのですが、普段は「センチミリメンタル」というソロプロジェクトで活躍されている方でした。
どんな曲作ってらっしゃるのかなと、YouTubeにあるMVを見たり、アルバム(「やさしい刃物」)の曲を聴いたりしたんですが、壮大な感じのある編曲や耳に残るメロディラインが印象的な曲をたくさん作られているんだなと感じました。
声もとても良くて、全体が合わさって、優しく繊細な感じの楽曲が多いように思いました。
何でしょう、いい意味で暑苦しくないというか(笑)
青春感のある曲もあるんですが、ウェットな感じがあまりしなくて、押しつけがましくなく聞ける感じがして。一方で、人のネガティブな部分であったり、気持ちに寄り添ってくれる優しい部分もあって、とても魅力的でした。
「五月雨よ」でもストリングス(弦楽器系)が印象的に使われていますが、オリジナル曲でもストリングスやピアノが効果的に使われている曲が多くて、壮大な感じでありながら、かつ繊細というのが一つの特徴なのかなと感じました。
音楽的な解説は以下の記事を読んでみるといいかもしれません。
MVのコメント欄とか見ていると海外のファンも多いみたいで、櫻坂には打ってつけの人選だったんじゃないかなと思います。
何曲かおすすめを。
☆キヅアト
ロックサウンドな曲で「五月雨よ」とは全然毛色が違いますが、耳に残るメロディーでとても好きだなあと思いました。アニメの主題歌だったみたいです。アニメ最近全然見ないからなあ。
☆死んでしまいたい、
かなりインパクトのある曲、MVですが、欅坂が好きだった人には分かるところもあるのではと思います。「死にたい」わけではないけれど、「明日が来なければいいのに」と漠然といつも思っている私には、とても響く曲でした。
☆対落
サビ後半の「それをだれかがかなしみとよんでも」の部分のリズムの変化は、「五月雨よ」の「どんな時も~」の部分と似た部分があります。こういう変化が私は個人的に好きなんだなと思いました。「五月雨よ」ではこの部分が一番好きなんで。
☆リリィ
この曲は歌詞がいいです。誰かを守ろうとして、結果的に誰かを傷つけてしまう。そして、それに傷ついて自分がまるで被害者みたいに感じたりして。そんないつの日かの失敗を思い出しました。YouTubeページでの温詞さん本人のコメントもぜひ読んでみてほしいです。人間の弱さを包容してくれるような部分は、私が欅坂や櫻坂を好んでいる理由の一つと被る部分でもあります。
ところで、温詞さんは今までアイドルソングは提供したことがなく、今回初提供でした。なぜ温詞さんを起用したのでしょうか。
櫻坂に限らず、坂道の多くの楽曲は職業作曲家の方が作ることが多いです。もちろん、これはこれでクオリティの高い商業音楽になります。
しかし、今は女性アイドル業界にとっては時代が変わりつつあるタイミングだと思っています。
モーニング娘から始まった90年代後半~2010年代を席捲した、平成発の女性アイドルが音楽シーンを牽引する時代は終わりを迎えつつあると私は考えています。
そんな中で櫻坂は何をしていくのが良いのか。
私はより作家性の強い人に作曲をしてもらうのが一つの方法ではないかと思います。歌詞はやすすが書くのが仕組みの根幹なので、これは変わらないでしょう(笑)
商業音楽はマスに発信し、受け手の最大公約数を獲得していく必要があります。でも、今は価値観が多様化し、最大公約数自体が減少しています。それであれば、より熱量の高い、刺さる人にはすごく刺さるという方向でマネジメントしたほうが、結果的に長続きするのではないかと考えているからです。
その1つの方法として、作曲をより作家性の強い、オリジナルソングなどを自分で出していて、数は関係なく、熱量の高いファンを持っている若いアーティストに依頼していくというのは悪くないと思います。若いアーティストのほうが新しい音楽を作りやすいのと、アイドルを聞く年代(10代後半から20代)と親和性が高いと思うので、ここでは若いアーティストとしています。
考えてみれば、欅坂ではナスカさんはこのカテゴリーに近い作曲家です。もともとはバンドですので、オリジナルソングもありますし、楽曲的にもいわゆるアイドルソングとは一線を画した、作家性の強い音楽で欅坂の後期を支えてもらいました。「黒い羊」は私にとって、ずっと大切な曲です。
「五月雨よ」では、新進気鋭のアーティストである今回紹介した温詞さんに曲を書いてもらっています。日向坂の新曲である「僕なんか」も温詞さんです。もとはMVやアートワークも自分でやられていたぐらいアーティスト色の強い方です。
ジャケットアートワークのPERIMETRONも20代後半の若手クリエイター集団です。私は同い年くらいなんですけどね(笑)
こういう人選的に、運営はよりアーティスティックにやっていこうというチャレンジをしているのではないか。だからこそ、今回は温詞さんを起用したのではないか、というのが私の仮説です。
もちろん実際には運営がどういう意図で、この人選をしたのかはわかりませんが、少なくとも私はこの方向性自体は間違ってないと思います。
ゴールが間違っていなければ、手段は色々と試せばいい。
最悪なのは、手段の評価を取り違え、ゴールを変えてしまうことです。
私は今の櫻坂の持っている方向性は間違っていないし、変えるべきではないと思います。
櫻坂には作曲家、アートワーク、MVなどを担当するクリエイターのインスピレーションを刺激する存在でいてほしいです。それが強い、簡単には離れないファンの獲得につながると私は信じています。
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